若い職人が辞める背景には、現場で「言えない」状態が積み重なっていることが多く、条件だけでは埋まらない。一日の終わりに「やりにくかったとこある?」と具体を聞き、すぐ解決せずまず受け取ることが、話が通る現場をつくる。
若い子が辞めるとき、前の日まで普通に笑って帰っていった、という話はよく聞きます。親方からすると「なんで急に」となる。でも辞める側からすれば、急ではないことが多いんじゃないかと思います。
たとえばこんな場面です。積み込みのとき段取りが分からなくて突っ立っている。聞きたいけど、みんな動いているから声をかけづらい。結局その日は言われたことだけやって帰る。それが何日か続くと、「自分はここで使い物にならんのかな」という考えが頭の中で育っていく。
あるいは、やり方について自分なりの考えがあるのに、言ったら「口答えするな」と思われそうで飲み込む。飲み込むのが当たり前になったころに、知り合いから「うちに来ないか」と声がかかる。そこで初めて、辞めますという言葉が出てくる。
辞める理由が給料や休みだけだったら、条件を変えれば残ります。でも実際は「ここでは何も言えなかった」が混ざっていることが多い。そこは条件では埋まりません。
私が現場でやり取りしてきて感じるのは、話しかけづらさは、人柄よりも「場の作り」で決まるということです。怖い親方でも人が辞めない現場はあるし、優しい親方でも次々抜けていく現場もある。違いは、言ってもいい時間が確保されているかどうかです。
忙しい現場では、会話はほとんど指示になります。「そこ持て」「先に上げろ」。指示は伝わるけれど、そこに「気になってることある?」が入る隙間がない。隙間がないまま何ヶ月も経つと、若い子は「言う場所がない」と学習してしまう。人は、聞かれたことしか答えません。聞かれない話は、そのまま持ち帰って一人で考えることになります。
もうひとつは、返ってくる反応の読み合いです。「それは違う」と最初に否定された経験が一度あると、次から出しません。コーチングを学んできた立場から言うと、人が話し続けるかどうかは、話した後にどう扱われたかでほぼ決まります。中身を採用するかどうかは別の話で、まず「聞いた」が伝わるかどうかです。
面談の制度を作る必要はありません。手間がかかる割に、かしこまって本音は出にくい。使えるのは、現場の中の短い時間です。
一日の終わり、道具を積みながらこう聞いてみてください。
「今日やってて、やりにくかったとこある?」
「良かったこと」ではなく「やりにくかったこと」を聞くのがコツです。困りごとは具体なので答えやすい。「ないです」と返ってきても、聞かれた事実は残ります。三回聞けば、四回目に何か出てくることがあります。
教える場面では、こう足します。
「今の説明で分かりにくいとこあったら、そこだけ言って」
「分かったか?」だと「はい」しか返ってきません。分かりにくい前提で聞くと、質問が出しやすくなります。
段取りを決めるとき、先に聞くのも効きます。
「これ、どうやるのが早いと思う?」
自分の考えを言ってから聞くと、それに合わせた答えしか返りません。先に聞いて、採用しないときは「今回はこっちで行くわ、理由はこれ」と理由だけ渡す。採用されなくても、理由が分かれば人は納得します。
そして、話が出たときに大事なのは、その場で解決しなくていいということです。「そうか、それはやりにくいな」と受け取るだけで、次も言おうと思ってもらえます。すぐ直せないことも多い。直せないなら「今はこういう事情で変えられん」と正直に言えばいい。
人が残るのは、居心地がいいからではなく、ここでは話が通ると思えるからじゃないかと思います。明日の帰り、一人にだけでも聞いてみてください。
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