技能実習生が「ハイ」とうなずくだけで伝わらないのは語学力だけの問題ではなく、上下の関係の中では質問そのものがしづらくなるからだと読み解いた。立場に上下はあっても人としては対等に向き合う姿勢に立ち、「順番だけ言ってみて」「俺の言い方が早かったな」「助かった」「危なければ俺でも止めてくれ」といった具体的な言葉に置き換える方法を示した。
たとえば、こんな場面があると思います。
朝礼で段取りを説明して、最後に「わかった?」と聞く。実習生は「ハイ、ダイジョウブ」とうなずく。ところが実際に動き出すと、materialの置き場所が違う、手順が飛んでいる。「さっき返事したよな?」と言いたくなる。
あるいは、危ないと思った場面で声が出ない。手すりの先行取り付けをすっ飛ばしそうになっていても、黙って作業を続けてしまう。こちらが気づいて止めると、また「ハイ、スミマセン」。
言葉の問題だと片づけたくなりますが、日本人の若手でも同じことは起きます。日本語が上手な実習生でも起きます。だとすると、原因は語学力だけではないのかもしれません。
アドラー心理学をベースにコーチングをしている立場から見ると、ここで効いてくるのは「横の関係」という考え方です。難しい言葉ですが、要するに、教える側と教わる側で立場は上下だけれど、人としては対等に向き合う、ということです。
人は、相手を「自分より上の人」と感じると、質問しなくなります。聞き返すこと自体が「できない奴だと思われる」「怒られる」と感じるからです。まして、日本語が不自由で、帰る場所も仕事もこちらが握っている――そう感じている相手なら、なおさら口が重くなる。「ハイ」は、わかった合図ではなく、この場をおさめる合図になってしまう。
そして「わかった?」という聞き方そのものが、上から確認する形になっています。返せる答えは「ハイ」しかない。ここが、いちばん静かに事故に近づいていく場所だと思います。
逆に、対等に向き合われていると感じた相手は、わからないことをわからないと言えるようになります。安全の話は、そこからしか始まりません。
**1. 「わかった?」をやめて、相手に言ってもらう**
「今から何する? 順番だけ言ってみて」
口に出してもらえば、どこが抜けているかがすぐわかります。責めるためではなく、こちらの説明の穴を探すために聞く、という気持ちで。
**2. 伝わらなかったら、自分の側に返す**
「ごめん、俺の言い方が早かったな。もう一回、ゆっくり言うわ」
「なんでわからないんだ」と相手に矢印を向けるか、「俺の伝え方だな」とこちらに向けるか。この一言があるだけで、次から聞き返してもらえるようになります。
**3. ほめるのではなく、助かったことを伝える**
「今の片づけ、助かった」
「先に声かけてくれたおかげで、段取り崩れずに済んだわ」
「よくできました」は、上の人が下の人を評価する言い方です。「助かった」「ありがとう」は、同じ現場で働く者同士の言葉です。伝わり方がまるで違います。
**4. 止める権利を、先に渡しておく**
「危ないと思ったら、俺が相手でも止めてくれ。それが一番ありがたい」
最初にこれを言っておくと、事故の芽をひとつ潰せます。
あとは、言葉より実物です。やってみせる、指をさす、部材を手に持たせる。紙に絵で描く。図面を見せながら「ここ」と指す。これは日本人相手でも同じことですね。
教える相手は、母国で別の仕事をしてきた大人です。こちらが知らないやり方を知っていることもある。そう思って向き合うと、こちらの言葉も自然と変わってくる気がします。
言葉が通じない分、態度は正確に伝わります。まずは「わかった?」を一つ、別の聞き方に変えてみるところからでいいと思います。
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