図面を海外に安く描いてもらう。最近、そんな話をよく聞くようになりました。
効率、スピード、価格。たしかに、それで回る仕事もあります。単純なトレースや、決まった形の繰り返しなら、そちらの方が合理的でしょう。私はそれを否定しません。
ただ、そこでは戦わないと決めています。理由は精神論ではありません。構造的に、そちらでは埋められない穴があるからです。
足場の計画図は、建物の図面をもとに描きます。ところが渡される竣工図は、建てたときのものです。それから何年、何十年と経っています。
実際に現地へ行くと、図面に無いものが当たり前に出てきます。
どれも、図面の上では存在しないものです。そして、どれも足場の割付を変えます。
現地を見ていれば、これらを最初から盛り込んで描けます。見ていなければ、組む段になって初めて分かる。組み始めてから「ここ、入らないぞ」となったとき、止まるのは図面ではなく現場です。
壁つなぎをどこで取るか。昇降階段をどこに付けるか。梁枠の開口をどこに設けるか。図面上はどれも「成立」します。けれど、資材の搬入動線と重なっていれば、職人は毎日そこで苦労します。
この判断は、現況を知らないと下せません。そして現況は、現地に立たないと分かりません。これが、遠隔でどれだけ安く早く描いても埋まらない差です。
機械等設置届の添付書類は、厚生労働省のサイトで確認できます。ただ、正直に言えば、それだけでは足りません。
公表されている一覧は、あくまで基本の形です。実際には所轄の監督署ごとに求められるものが違い、同じ組み合わせで一方は通り、もう一方では追加を求められる、ということが起こります。
差し戻された経験はほとんどありません。それは運が良いからではなく、何が必要かを把握したうえで揃えているからです。逆に言えば、把握していなければ差し戻されます。
設置届は着工の30日前までに出す必要があります。差し戻されて再提出になれば、着工日が動きます。足場も、職人も、その後の工程も、まとめて動きます。提出の条件と必要書類については、こちらにまとめました。
図面が安く上がっても、現場が一日止まれば、その損失は図面代の比ではありません。手戻りが出れば、組み直しの手間も、職人の時間も、工程の遅れも、すべて元請が被ります。
比べるべきは「図面の値段」ではなく、「手戻りが起きたときのコスト」だと考えています。
私が東京・埼玉・神奈川の現場で現地調査を無料にしているのは、サービスのつもりではありません。見てから描かないと、責任が持てないからです。
もうひとつ、書いておきたいことがあります。図面どおりに組まれないことは、実際にはよくあります。
職長が図面を読めても、その下まで伝わっていない。あるいは、読む時間がない。現場が動き出せば、そういうことは起こります。誰かが手を抜いているという話ではなく、そういうものだと思っています。
以前、私の会社が下請けで入った現場で、足場と図面に差異が出て呼び出されたことがありました。よく照らし合わせてみると、図面と違う組み方をしたことで、建物の上部でブラケットの差し込みが物理的にできなくなっていた。図面どおりに組まれていれば、起きなかった話です。
そのとき、差異が出た箇所だけを切り取られて、私の図面のせいだと言われました。正直、こたえました。
ただ、犯人を決めても足場は建ちません。あの一件以来、描いて渡して終わりにしないようにしています。図面は、組む人に伝わって初めて図面になる。連絡を頻繁に取るようにしているのは、そのためです。
ありがたいことに、継続してご依頼をいただいている元請様がいます。「また頼むわ」と言葉にして言われたわけではありません。それでも、任せていただけている実感があります。
理由は、たぶん派手なものではありません。早いこと。正確なこと。連絡が頻繁に取れること。そして、労基まわりを分かっていること。この4つだと思っています。
とくに最後のひとつは、意外と大きいのだと感じています。図面だけ描いて「あとは提出してください」で終わらないこと。何が必要で、どこでつまずくかを一緒に把握していること。それが安心につながっているのだと思います。
一緒に現場を乗り切って、無事に終わる。それを一件ずつ積み上げていく。私が価格で選ばれる図面屋にならないと決めているのは、そのためです。
そういう仕事を、私はしています。